映画「ひまわり」

ウクライナ戦争が長引いていて、戦地の人々を思うと心が痛みます。この戦争が始まって以来、ウクライナの土地が舞台となった映画「ひまわり」が何度かテレビで再放送されていますね。1970年に公開された古い映画です。新婚早々でラブラブだったイタリアの男性が、新妻を残し、第二次大戦に出兵して行きます。その後彼を含めたイタリア兵たちは雪に覆われた極寒のウクライナの土地で行軍を強いられ生死を彷徨い、怪我を負ったその男性兵士は取り残され意識を失ってしまいます。ところが空が晴れその場を見に来た現地の若い女性が、彼の息があることに気付き、意識のない男性の大きな体を引き摺って救い出し一生懸命介抱します。命を助けられた男性は当時記憶喪失になっており、そのままその地で生きて行こうと、女性と結婚して家庭を築くのです。

一方、イタリアに残っていた妻は彼の確固たる死亡の証拠がないため、絶対生きていると信じて彼の帰還を待ち続け、彼がソ連(ウクライナの地)に居るはずとの思いを持って夫探しに出向きます。何年かのちに、ようやく夫の所在を見つけその家に行き着いて再会を果たすのですが…。時すでに遅しでした。失意の妻はイタリアに戻り夫を諦めて自らも結婚し子供をもうけます…。一方イタリアと元妻への思慕を整理しきれないその男性は、妻の許しを得てイタリアにやってくるのですが、元妻にも子供がいる現実に直面し苦しみます。戦争によって別々の運命を辿り、もう元には戻れない現実に苦悩するカップルを描いたストーリーで、こういった第二次世界大戦下の悲劇を描いた映画は、若い方には昔物語の一つでしかないかも知れませんが、戦争がもたらした人と人との残酷な別れと悲しみが丁寧に描かれています。

人と人の別れや愛着対象を失うことは心が痛み苦しいのが当たり前です。ところが昨今、例えばペットを購入しても、飼えなくなると簡単に捨ててしまう人々の話をよく耳にします。それはどうも健康的な心理とは思えません。「人やペットや愛着物との別れ」、「思いの断念」、それに伴う「辛さや、悔しさ、悲しみ」といった感情は、しみじみと味わうことで、苦悩の時を経ることで、ようやく抜け出すことができるものです。またそうしたプロセスを経てこそ、人の心は豊かにもなるのです。フロイトはそうした心のプロセスを「mourning work(喪の作業)」と呼び、人の心にとってとても重要な心の働きであると説きました。

以上のように、この映画は主に戦争による人間の悲哀を描いていますが、並行して、広大なウクライナの雪原での過酷な行軍の景色、そこが戦後の夏には延々と豊かなひまわり畑になっている様子、そしてその下には多くの兵士が眠っている史実、そこからも、戦争というもののむごさが伝わってくるのです。一度は見て頂きたい映画です。