「発達障害」について

今回は、最近よく聞く「発達障害」を取り上げてみましょう。発達障害とは、脳内の神経系の働きに偏りがあると言われ、幼少期に現れてきます。

よく話題になる発達障害は、以下の三つでしょう。

1)自閉症スペクトラム障害(ASD)

典型的な自閉症は、赤ちゃんの時から目が合わない、1人で笑ったりひとり言を話す(対人コミュニケーション問題)、手をひらひらさせるなど同じ行動を繰り返す(常同行動)、反応が乏しい、ゆうずうが利かずこだわりやかたよりが強い、などが特徴です。

自閉症スペクトラム障害とは、そうした典型的な自閉症から、行動や対人関係面の一部に自閉症的な偏りがあるタイプまでを、幅広く(自閉症スペクトラム)とくくって名付けています。アスペルガー症候群と呼ばれるものもここにはいります。アスペルガー症候群は、知的なおくれを伴わない自閉症スペクトラム障害で、興味のあることへのこだわりが強かったり対人関係が苦手なことが多いのが特徴です。

職業的には専門職や職人に向いているようです。テレビでお馴染みのさかなクンは、魚への愛と知識、イラストに関してはとびぬけた能力を発揮し、いまでは大活躍ですが、小さいときから興味をもつことのかたよりが激しかったといいます。学校では授業はそっちのけで一人で魚のことを考えたり絵を描いたりしていたそうで、お母様は学校の先生から「他の教科の学習もさせるよう」しばしば注意を受けたそうですね。そうしたかたよりや半端でないこだわりから、彼は自閉症スペクトラムに入ると言われています。

自閉症スペクトラム障害だろうと言われる人には、有名な学者が多くいます。ジャン=アンリ.ファーブルもその一人です。子どものころから優秀でしたが、すぐに成果を出したわけではなく、教師などの仕事をしながらいろんな研究や実験を行っていたそうです。たぶん「ちょっと変わった人」と思われていたのではないでしょうか。でも、かなり年を取ってから、昆虫についての研究をまとめ、世界中の図書館にかならず並んでいる有名な「ファーブル昆虫記」を出したのです。

自閉症スペクトラム障害のこだわりやかたよりは、1人でやりたいことに没頭、熱中するにはもってこいの性質です。天才と呼ばれる人やノーベル賞受賞者に多いと言われるのは、そういうこだわり方や没頭する力がプラスにはたらいたおかげでしょう。人と違うからと怒られたりしますが、家族や教師らは、それがその子の天分なのだ、個性なのだとうけとめて、見守りそだててあげる姿勢が大切です。

2)注意欠如/多動性障害(ADHD)

注意力に欠け落ち着きがないのが特徴です。その場の様子におかまいなく、自分がおもしろい!とか、あ!行きたいと思うと、即動いてしまったり、関心のあるものに突進したりするため、おちつきがないとか周りを見ていないとか、いろいろ注意を受けてしまいます。

  ①不注意:順序だてた作業に取り組みにくい。勉強や遊びの最中に、自分のやるべきことをあとまわしにしてしまう。自分の興味を優先させるあ       まり、周りの人からの注意が耳に入らないし、自分でもだいじなところを見過ごしたりする。

  ②多動:ソワソワし、手足をトントンしたり、席を離れる、走り回ったり高い所に上がったりする。目先の興味だけで動いてしまう。

①や②の傾向のため、人に合わせるべき場面でも、勝手に喋る、人の行動を妨害する、と言った困った面がよく問題になります。

上のような特徴が12歳以前からある場合、ADHDである可能性が考えられます。しかしADHD傾向にある有名人もけっこう多くて、黒柳徹子さんはそこに属する人として知られます。

3)限局性学習障害

知能のおくれはないのに、字をただしく読みとることに難しさを感じる「読字障害」、文字がうまく書けない「書字障害」、数が数えにくかったり計算が困難だったりする「算数障害」などがあります。

字の形がよくにているアルファベットをつかう国では、「読字障害」の人が多く、アメリカ人俳優のトム・クルーズ氏は読字困難のため、台本を覚えるためのたすけがされているとのことです。「書字障害」のある子どもは、漢字練習のときに、線を一本おおく引いてしまったり、ウかんむりとワかんむりを何度言われても間違ったりします。本人にしたら、そのくべつはとても難しいのです。

ジュラシックパークなどで有名な映画監督のスピルバーグ氏も学習障害で苦労した人で、2年遅れで小学校を卒業したそうです。

我が子が育てにくい、周りの子どもと動きがちがうみたいだ、何でこの子はこんなだろうか、と思われたら、発達障害の可能性もありますから、早めに小児精神科医の診断を受け、我々臨床心理士に相談されると良いでしょう。発達障害の場合、大人になるプロセスで生じる二次障害(発達障害が元となって、あらたに別のこころの問題や不適応、パーソナリティ障害などが発生してくること)が大きな問題となります。

発達障害傾向のある子どもは、みんなの中でうまく行かない感じや、周りが分かってくれない思いや、不器用な感覚をいだいているので、その子たちが安心感をもって育つためには、心理療法が役に立つこともあります。また保護者がそうした子どもへの接し方を学ぶことは、保護者にとっても子どもにとっても、「そうか、そうすればよいのか」と分かってストレスが減るでしょうから、とても役に立つでしょう。